サウジアラビアの婚前契約とアメリカの婚前契約プレナップは同じものなのか?
サウジアラビアは、2016年から「サウジアラビア・ビジョン2030」を掲げて、大々的な社会改革を行ってきていますが、結婚についても、従来のお見合い結婚に限らず、自分で結婚相手を見つけることが、できるようになってきました。
しかし、地域により、結婚に対する風習、習慣は、保守的なところもあり、恋愛結婚はいけないという考え方が根強く残っています。
サウジアラビの結婚は、4段階を踏み結婚に至ります。
サウジアラビアの婚約式は、結婚式と同じ意味合いを持ち、この婚約式のときに、婚前契約を行い、万が一、離婚になったときの賠償金(慰謝料)を決めます。
この婚前契約のことをサウジでは、「モアッハルサダーカ」といいます。直訳すると先延ばしされた結納金となります。
アメリカにも婚前契約があり「プレナップ」と呼ばれています。
この記事では、サウジアラビアの婚前契約「モアッハルサダーカ」とアメリカの婚前契約「プレナップ」は同じものかどうかを調べてみました。
サウジの婚前契約とアメリカの婚前契約を比較するためには、それぞれの国の結婚制度と離婚制度について知る必要があると思って、いろいろと調べてみました。
サウジアラビアの結婚制度とアメリカの結婚制度について
サウジアラビアとアメリカの結婚制度について説明します。
サウジアラビアの結婚制度は?
サウジアラビアの結婚制度は、伝統的な慣習は、お見合い結婚でした。しかし、2017年からの大々的な社会改革で、女性の運転が解禁され、宗教警察も廃止されました。女性の権利を妨害してきた後見人制度も廃止され、女性は、自由に職についたり、海外旅行も夫や親族の許可なくできるようになりました。
このような社会の法律や規制が変化してきたことにより、人々の意識に変化がみられ、お見合い結婚にかぎらず、自分で結婚相手を決める事ができるようになってきました。
結婚するには、父親の許可が必要
しかしながら、自分勝手に、結婚相手と付き合うことは、許されていません。
サウジアラビアの結婚可能年齢は、18歳となっていますが、必ず父親の許可が必要になります。
交際は、婚約式が終了してから
男女の交際は、婚約式が済んでからになります。
婚約式を挙げないうちは、交際は、禁止されています。
また、厳格なイスラム教の教えに基づき、婚前交渉(結婚前性行為)は、ダメです。
過去に、イスラム法によるズィーナ(婚外・婚前交渉、私通)を犯したために悲惨な事件もおきています。
自分が選んだ彼女との結婚を父親に許可してもらえば、正式に結婚できます。
地域により、かなり保守的な家族の場合は、このような結婚を認めていない場合もあります。
しかしながら、就職している女性たちは、限られていますから、やはり伝統的なお見合い結婚が主流になります。
結婚までの過程は4段階
サウジアラビアの結婚に至るまでの過程は、お見合い(シャアファ)、お見合い成立(ホトバ)、婚約式(ミルカ)、結婚式(ジョワーズ)となります。
サウジの婚前契約(モアッハルサダーカ)は、婚約式のときに契約を結びます。
サウジアラビアの結婚事情について書いた記事がありますから、ご興味がある方は、是非、呼んでみてください。
では、ここから、サウジアラビアの婚前契約について詳しく述べていきます。
サウジアラビアの婚約式は、婚前契約と婚姻届けを行う?
サウジアラビアの婚約式は、婚前契約と、婚姻届けも一緒に行うとは、どういうことでしょうか?
サウジアラビアでは、婚約式が手続き上、日本の結婚式にあたり(まだ新郎新婦は一緒には住まないが)、結婚式は、単なる披露宴となります。
婚約式は、イスラム教の偉い宗教家「シェッハ」のみ前で行います。
婚約式で行われるのは、婚前契約と婚姻契約書の作成です。
- 婚前契約=(モアッハルサダーカ)+結婚生活上の決まり事
- 婚姻契約書
では、婚姻契約書から説明していきます。
サウジアラビアの婚姻契約は父親が花嫁の代理をつとめる?
サウジアラビアの婚姻契約は、父親が花嫁の代理をつとめるとはどういうことなのでしょうか?
新郎新婦が二人集まり、結婚を誓うのは世界中どこも同じなはずなのに?
どうして (;´・ω・)??
日本のように新郎新婦が、市区町村の役場に赴き、婚姻届け用紙に二人の名前を記入するというやり方ではないんです。
日本の場合は、神前結婚とか仏前結婚とか、教会での結婚とかいろいろなやり方がありますが、それは、儀式だけであり、婚姻契約書は、役場に届けますね。
サウジアラビアの場合は、どうでしょうか?
イスラム教の宗教家の前で新郎と新婦が結婚を誓う?
イスラム教の宗教家(シェッハ)の面前で、新郎と新婦が結婚を誓います。
しかし、宗教家の前には、花嫁の代わりに父親がいます。
あれっ、花嫁は雲隠れ?
いえ、そうではないんです。
サウジアラビアの婚約式には花嫁は出席できない?
サウジアラビアの婚約式には、花嫁は出席できないのです。
サウジの婚約式では、伝統的な習慣として、新郎新婦の両家の男性親族だけが、集まるからです。
サウジアラビアは、義務教育の小学校(5年生)から大学まで、男女共学ではなく、外出するときも、ほとんどの人が顔を隠している社会なのです。
しかしながら、ジェッダやリヤド、コバールの都市では、ヒジャーブもしない、顔も隠さない女性たちが大勢います。
花嫁の結婚の宣誓は花嫁の父が娘に確かめる?
イスラム教の偉い宗教家「シェッハ」は、新郎に新婦との結婚を承諾するかどうか問います。
次に、宗教家「シェッハ」は、新婦の父親に「あなたの娘さんに、この新郎との結婚に承諾するかどうか聞いてください」といいます。
新婦の父親は、隣の部屋で待機している娘に新郎との結婚の是非を確認します。
もし、父親が亡くなっている、或いは、外国に住んでいる場合は、代理人として叔父や花嫁の兄弟が婚約式に参加します。
これで、イスラム教の宗教家は、新郎新婦の結婚の契りの確認が終了したら、いよいよ婚前契約に入っていきます。
サウジアラビアの婚前契約はどんな取り決めを行うの?|離婚の際の資産分与はあるの?
サウジアラビアの婚前契約はどんな取り決めがあるのでしょうか?
新郎新婦の結婚の合意を確認したら、今度は、新婦の父親に万が一離婚になったときのモアッハルサダカ(賠償金)と結婚生活上の決まりごとを取り決めるという2つの条件を決めることができます。
モアッハルサダーカ(賠償金)とは?
モアッハルサダカ(賠償金)は、男性配偶者が女性配偶者に一方的に離婚を言い渡したときに、女性に支払われる賠償金です。
女性から、一方的に言い渡すことはできません。しかし、男性配偶者が家庭内暴力(DV)やギャンブルなどで精神的、肉体的苦痛を与えられた場合に、正当な証拠があれば、離婚申請は可能になります。
結婚生活上の決まりごととは?
もう一つの婚前契約である、結婚生活上の決まりごととは、なんでしょうか?
新婦の代理をつとめる父親は、新婦の意をくんで新郎に結婚生活を送る上での決まり事をお願いできます。
たとえば、どんな要望かというと・・・・・・
「毎月、1回は、実家に帰ってきてほしい」とか「娘の銀行のカードは、娘に持たせてほしい」など、希望するものを依頼していいのです。しかし、願いごとは、新郎の許容範囲であることが前提です。
これらの質問についての花嫁の父の文言は、記録されて保存されることになります。
以上、離婚のときのモアッハルサダカ(賠償金)と結婚を営む上のでの決まりごとの2つが、婚前契約です。
婚前契約がもし守られなかった場合は、裁判にもかけることができる法的な効力を持つ夫婦間での契約書なのです。
では、どんな決まりごとを新婦は新郎に要請するのでしょうか。興味がありますね。日本の結婚では、このような契約はないのでこの制度は、参考になるのではないでしょうか。
しかしながら、新郎から新婦への要請はありません。要請できるのは、新婦側からだけになります。
私がサウジ人の彼と結婚したのは、日本でしたから、私の父は、在日サウジアラビア大使館に赴き、上と同じような質問をされたそうです。
最初の賠償金については、「賠償金は、いらないですが、2番めの妻をめとらないようにしてください」とお願いしたら「イスラム教では、妻は4人までめとることができるので、それはできません」と言われたそうです。
2番めの質問の「新郎に何か望むものはありますか」については、「毎年、可能であれば里帰りをさせてほしい」とお願いしたそうです。
おかげさまで、長男が中学を卒業するまでは、毎年、里帰りをしました。
婚前契約の質問に対する父の受け答えを聞いて、父の愛情を感じたものでした。
※サウジアラビアの場合は、外国人と結婚する場合は、サウジ政府の内務省から結婚許可証を取得する必要があります。
現在(2020年)は、サウジアラビアの法律は外国人との結婚を認めていませんが、その当時は、外国人との結婚は許されていました。
アメリカの結婚制度は?
アメリカの結婚制度は、ご存知のように恋愛結婚ですね。
アメリカの結婚の手続きを調べてみると、日本とはかなりの違いがありました。
アメリカは日本のような戸籍制度がない
アメリカは、戸籍制度がないので、独身であることを証明するための、結婚許可証が必要となります。
結婚許可証の申請には、身元を証明するいろいろな書類を準備する必要があります。
また、アメリカでは、結婚後の「姓」に関して、配偶者の姓を名乗るかどうか法的に選択できますが、各州により制限があり、その制限に従い変更するかどうかを決めます。
結婚申請をするには結婚許可証が必要?
結婚許可証を取得して、はじめて結婚申請をすることができます。
州により、オンラインで申請することもできますが、最終的には、申請当事者は、双方とも役所に必要な申請書類を持っていかなければなりません。
挙式をあげなければ結婚証明書はもらえない?
結婚許可証の有効期限内に挙式をあげなければいけません。その期間は、10日から 30日、90日と各州により異なります。
挙式とは、合法的に結婚式を執り行う資格を持っている人(牧師など)を呼んで、神のみ前で結婚することを宣誓することです。
コロラド州のように、結婚の宣誓を誰かにお願いすることなく「自己宣誓方式」ができるところもあります。
権限ある挙行者は、結婚許可書に署名してそれを発行者に返却しなければなりません。
結婚許可証が発行者に提出された時点で、発行者から結婚証明書が渡されめでたく結婚が法的に成立したことになります。
サウジアラビアとアメリカの離婚制度について
今度は、サウジアラビアとアメリカの離婚制度について説明します。
両国の離婚制度を知ることにより、婚前契約が及ぼす効果が見えてくるかもしれません。
サウジアラビアの離婚制度とは?
サウジアラビアの離婚は男性配偶者からのみ言い渡される
サウジアラビアの離婚制度は、男性配偶者から一方的に離婚することができるのですが、女性配偶者からは、離婚を突きつけることはできません。
2019年1月6日に離婚の新制度が発足されたことにより、メールで離婚の通知が届くシステムになりました。
この新制度ができる以前は、妻は、離婚されたことを知るよしもなかったのです。
たとえば、夫婦ゲンカをして妻が数ヶ月間、実家に帰ったとしましょう。
すると、妻のいない間に、夫が離婚届けを出してしまった場合、妻は、そのことを知るよしもありません。
協議離婚ではないので、夫側から一方的に離婚できるからです。
この場合に、問題となるのは、妻が働いている場合です。
妻が働いている場合、「彼女の銀行のカードを所持している配偶者」は、離婚届けを出しているにも関わらず、彼女の給料を勝手に引き出してしまう場合があります。
そのような身勝手な夫の行動を抑え込む役目もあります。
サウジアラビアの女性配偶者は離婚を申請できるのか?
サウジアラビアの女性配偶者が、離婚を申請する場合は、正当な理由(家庭内暴力、飲酒など)があれば男性配偶者に離婚を申請できます。
サウジアラビアの離婚の際の資産分与は?
サウジアラビアの離婚の際の資産分与は、ありません。
婚約式の時の婚前契約で取り決めたもの「モアッハルサダカ」が、唯ひとつ女性配偶者の※賠償金(慰謝料)になります。
※賠償金(慰謝料):これからは、「モアッハルサダカ」を賠償金と言うことにします。
アメリカの離婚制度は?
アメリカの離婚制度はどうでしょうか?
アメリカの離婚は、双方からみくだりはん(三行半)を言い渡す?
アメリカの離婚制度は、アメリカ全州で認められている「No Fault Divource」です。
直訳すると『過失のない離婚』。
配偶者になんら非(家庭内暴力や不倫)がなくても、どちらか一方から三行半(みくだりはん)を突きつけることができる離婚制度です。
サウジアラビアの離婚制度と似ていますが、サウジの場合は、女性から一方的に離婚を突きつけることはできません。
アメリカの離婚の際の資産分与は?
アメリカの離婚の際の資産分与は、半分半分ですが、離婚を突きつけた側は、慰謝料を、払う義務がありません。
しかしながら、資産分与を受けられるのは、10年以上の結婚歴が必要になります。
アメリカの婚前契約(プレナップ)とは?
アメリカの婚前契約(プレナップ)は、正確には「プレナプシャル・アグリーメント(prenuptial agreement)」といい、日本語に訳すと「婚前契約」となります。
アメリカのプレナップは?
アメリカのプレナップ(婚前契約)は、結婚生活上の決まりごとから、離婚するときの資産分与について、結婚前に新郎新婦が相談して取り決めるものです。
プレナップ(婚前契約)の資産分与の仕方は?
プレナップの資産分与は、結婚前に持っていた資産や贈与や相続で取得した資産以外は、結婚後に稼いだ資産(夫婦のどちらが稼いだに関係なく)というのは、離婚の時は、それぞれ半分づつの分け前になります。
もし、夫婦のどちらかが、離婚を突きつけても、婚前契約をしていれば、自分の所有財産をごっそり、持っていかれることはないのです。
プレナップ(婚前契約)で注意するべきこと
プレナップ(婚前契約)で注意するべきことは、結婚前の自分の資産と結婚後の資産の区別を明確にしておくことです。
以前は、お金持ちの人が自分の財産を守るためにプレナップ(婚前契約)をしてきたと理解されていましたが、最近のアメリカでは、プレナップの重要性を認識してきている人たちも多くなってきているようです。
結論
サウジアラビアの婚前契約(アッハルサダカ)とアメリカの婚前契約(プレナップ)の概念は、離婚の際のもめごとを無くすという意味では、理にかなっていて、同じ意味合いだと考えます。
サウジアラビアの婚前契約(モアッハルサダカ)は、離婚の際の女性配偶者への資産分与がないために、女性への賠償金或いは慰謝料とも考えられます。
アメリカの婚前契約(プレナップ)は、離婚の際の双方の資産を守る目的があります。
以上のことから、サウジアラビアの婚前契約(モアッハルサダーカ)とアメリカの婚前契約(プレナップ)は、離婚の際の言い争いを無くし、結婚前に資産の分与を決めたことにより、離婚という双方にとって精神的につらい状態を軽減してくれる役目を担っています。
アメリカの婚前契約(プレナップ)制度とサウジアラビアの婚前契約制度は、それぞれ内容には、文化により違いがありますが、その婚前契約の目指すところは、同じであるといえるでしょう。
サウジアラビアの婚前契約制度は、サウジだけのものではありません。昔から広くイスラム世界で行われている制度です。
イスラム教では、妻を4人までめとることができる法律があります。なので、このモアッハルサダーカ(賠償金)があることにより、軽々しく離婚ができないような役目も担っているのではないでしょうか。