サウジアラビア観光ビザ解禁の舞台ウラ|政策の改革により女性の地位が向上
世界で一番ビザを取るのが難しかったサウジアラビアがいよいよ観光ビザを解禁しました。
オンラインで観光ビザを取得できる国は、49ヶ国です。
欧米地域やオセアニア地域とアジアからです。
アジアからは、韓国、台湾、香港、マカオ、中国、日本、シンガポール、ブルネイ、マレーシア、カザフスタンなどです。
これに該当しなかった国は、最寄りの大使館か領事館で観光ビザを取得することになります。
また商用や巡礼でサウジアラビアを訪問する場合は、それぞれのビザを大使館や領事館で
今までと同じように申請しなければなりません。
あくまでもオンライン申請ができるのは、観光ビザに限定されます
世界で唯一、観光ビザを発行してこなかったサウジアラビア。
観光ビザ解禁という表舞台の出来事は、まさにこの国にとっては大変画期的なことでした。
実は、サウジアラビア国内の舞台裏でも、ここ2年の間に大々的な政策の変化があったのです。
そしてその結果として観光ビザ解禁が女性の人権を向上させたのです。
サウジアラビア観光ビザ解禁のウラで、サウジ国内では、どんな政治的改革がおきていたのか?
サウジアラビアでは、2017年から、少しづつ政策の変化が起きてきていました。
実は、それ以前からサウジアラビアの改革の方針は決められていたのです。
2016年に制定された「サウジアラビア ・ビジョン2030」です。
これは、現副首相のムハンマド・ビン・サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ・アール=サウードが
経済開発評議会議長であった時に制定されたものです。
このビジョンには、大まかな目標が2つあります。
- ウムラ(小巡礼者)の受入許容者数を年間800万人から3,000万人に増やす
- UNESCOの世界遺産登録数を2倍以上に増やす
この2つの目標から伺えることは、観光客を増やすと同時に巡礼客の増加も考慮にいれていることがわかります。
1つ目のウムラの受け入れ許容者数の増加のために、聖地メッカで世界一高い161メートルの空中礼拝所の建設が始まりました。
空中礼拝所の面積は、400平方メートル以上で、200人以上の礼拝者を収容できるそうです。
2つ目の世界遺産の数を増やすということは、現在5個の世界遺産を所有していますが、まだまだサウジアラビアには世界遺産に申請できる遺産が数多く存在しているということです。
それでは、順を追って2017年から 2019年までのわずか2年の間に行われてきた政策の変化をみていきましょう。
サウジアラビアの政策変更 ①音楽活動や芸術活動の承認
日本からオーケストラがやってきてサウジアラビアの首都リヤドで公演をしたり、エジプトからも有名な劇団がやってきたりと徐々に芸術活動が許されてきました。
それまでは、サウジアラビアの歌手は、国内で歌うことは、許されていませんでした。
彼らは、国外で歌っていたのです。
もちろん、かれらの歌声は、カセットテープに姿を変えてサウジアラビア国民は間接的に歌を聞くことはできたのですが。
生の声を聞きたいときは、外国に出て、例えばエジプトで公演されるときは、エジプトまで出かけて行って聞いていたのです。
サウジアラビア女性の場合は、昔、有名な「ヒターム」という歌手がいました。
もちろん彼女も国内での音楽活動は、許されていなかったので国外で歌っていました。
しかし、女性が国外に出て音楽活動をするとは、けしからんということで彼女は、国外追放になったのです。
サウジアラビアの政策変更 ②女性もスポーツの観戦に参加
サウジアラビアでは、女性が男性と一緒にスポーツを観戦することは、許可されていませんでしたが、
2017年から女性もスポーツ観戦が許可されたのです。
サウジアラビアの政策変更 ③宗教警察の廃止|アバーヤの色は何色でもよい
2018年には、宗教警察の廃止が施行されました。
それまでは、アバーヤを着用しなかったり、ヒジャーブを被っていなかったりすると宗教警察から厳重に注意されたものです。
またアバーヤの色も黒色に限定せず、どんな色のアバーヤでもいいことになりました。
サウジアラビアの政策変更 ④後見人制度を廃止|しかし結婚には父親の許可が必要
サウジアラビア女性は、保護者(夫や父、親族など)の許可なくパスポートを作ることも旅行をすることも、許されていなかったのです。
また女性が就職するときも、夫や保護者の許可が必要でした。
このような後見人制度というものがサウジアラビアには、古くから存在していました。
2019年から後見人制度は、廃止されましたが、結婚については、まだ父親の許可なくして結婚は、できません。
ところで、サウジアラビアでは、未婚のカップルはホテルに泊まることはできません。
自由恋愛や婚前交渉は、禁止されていますから当然のことですが・・・
以前は、女性一人でホテルに泊まることは、許されませんでした。必ず誰か一緒に泊まることができる保護者が必要でした。
しかし、現在は、女性ひとりでもホテルに、宿泊できるようになりました。
しかし外国からの観光客に限り未婚の外国人カップルがホテルの同じ部屋に泊まることは、許されます。
サウジアラビアの政策変更 ⑤外国人の女性のビザ取得年齢を30歳以上から18歳に変更
サウジアラビアでは、観光ビザ解禁前までは、外国人の場合でも商用でビザを取得するときには、女性の場合は30歳以上でなければなりませんでした。
どうしてそのような年齢制限があるのかと不思議に思われるかもしれませんね。
皆さんは、ご存じなかったかもしれません。
実は、サウジアラビアの女性は、後見人制度(父親や夫などの親族の許可が必要)で自由に外国に行くことを禁じられていました。
なので、自国の女性にそのような年齢制限を付けているので、他国の女性にも30歳という年齢制限を付けたのだと考えられます。
30歳という年齢は、20代の若い子と違い分別があるだろうからこちらへの入国を許可してもよかろうという考えなのかもしれません。
そして、2019年9月27日のビザ解禁に伴い外国人の女性がビザを取得する場合は、18歳に年齢が大幅に繰り下げらました。
サウジアラビア政策変更 ⑥女性の車の運転が解禁
ところで、皆さんがご存知かどうかわかりませんが、実はサウジアラビア女性は、今まで車の運転が禁じられていたんです。
それが、2018年6月24日から女性の運転が解禁になったのです。
サウジアラビアの政策変更 ⑦リヤドとジェッダでエンターテイメント解禁|日本の伝統花火サウジ建国記念日に参加
私が今まで35年間以上サウジアラビアに住んでいて夢にも思わなかったことがあります。
それは、何だと思いますか?
世界的なアーチストの公演がサウジアラビアで許可されたことです。
- 2019年10月、日本でも人気のあるK-POPの「防弾少年団」(BTS)がリヤドで公演を行ないました。
これは、66日間の「リヤドシーズン」というエンターテイメントの行事に召喚されました。 - 日付が前後しますが、2019年7月には、アメリカの人気グループ「BACK STREET BOYS」が、
ジェッダの40日間のエンターテイメント「ジェッダシーズン」で公演しました。 - 2019年9月23日のサウジアラビア建国記念日では、日本から伝統花火と「音楽+テクノロジー+パフォーマンス」が合わさった「STAR ISLAND」が公演して大成功を収めました。
- 映画館の開設
以上2017年から2019年のサウジアラビアの政策の変化を箇条書きにしてみると
- 音楽活動や芸術活動の解禁
- 女性がスポーツの観戦に参加
- 宗教警察の廃止
- 女性の車の運転が解禁
- 後見人制度の廃止(しかし結婚は、保護者の承諾が必要)
このようにわずか2年の間にサウジアラビア国内では、女性の人権が大幅に向上しました。
サウジアラビア政策改革から考えられる観光ビザ解禁への道のり|女性の人権が向上
サウジアラビアは、2017年から2019年までのわずか2年間の間にうえに上げたような5項目の政治改革が行われてきたのです。
このような国内の画期的な改革を起こさなければ今回の観光ビザ解禁の施行は難しかったのではないかと思います。
観光ビザを解禁するには、観光客が着用するアバーヤやヒジャーブの問題がありました。
しかしサウジアラビアと文化の違う外国から来る観光客は、そのような伝統衣装を着るにはかなり抵抗があることでしょう。
だから外国人観光客は、アバーヤもヒジャーブも着用しなくてもよいことになりました。しかし節度のある服装をしなければなりません。
サウジ女性のアバーヤも色は自由にしました。
観光客は服装が自由なのにどうして私達は、自由じゃないのという不満がサウジ女性から起きるかもしれません。
アバーヤのおしゃれを楽しめる要素を取り入れたのは、正解でした。
そして宗教警察も廃止にしました。
これで観光客も安心してサウジアラビア旅行ができます。
観光客が増えれば、スポーツ観戦目当ての女性旅行客も多くいることでしょう。そこでサウジ女性から「どうして外国人は、スポーツ観戦ができるのにサウジ女性は、見学できないの?」という苦情がおこる可能性も十分考えられます。
サウジアラビア女性のスポーツ観戦が許可されたのは、喜ばしいことですが、女性の座席は、ファミリー用に限定されています。
観光客が増えれば女性のタクシーの利用も増えます。
UberやCareemの配車サービスでは、サウジアラビア女性の運転手もいます。(乗客は、ファミリーの場合に限定される、男性のみの乗車はできない)
女性観光客も安心してタクシーを利用できますね。
大幅に女性の雇用が見込めますね。
また女性の運転解禁のメリットは、女性の雇用を増大させるだけではなく、運転手を雇うための家庭の支出を抑えることにもつながります。
しいては、外貨の流出を防ぎ国内消費を良くする波及効果があります。
音楽活動や芸術活動を解禁したり、「ジェダシーズン」や「リヤドシーズン」などのエンターテイメントを開催することは、海外や湾岸諸国からの観光収入が見込まれ、雇用創出にも役立ちます。
最後に後見人制度の廃止ですが、これにより女性の就職率もアップできますし、女性が保護者なしで留学できるので女性も世界にどんどん出ていき知識、知見を広めることができるでしょう。
これからは、男性ばかりでなく女性の活躍も見込めますね。
ところで、先ほど、外国人女性がサウジアラビアの観光ビザを取得する際の年齢が今までの30歳から18歳になったと説明しました。
それに伴いサウジアラビア女性も後見人制度が廃止されて、年齢が20歳以上(男性の場合は18歳から)であればパスポートを自分の意志で取得でき、自由に海外旅行ができるようになりました。
以上のような類まれな速さで次々に政策の変更が行われたことは、やはり観光ビザ解禁のために必要不可欠なことだったのではないかと推測されます。
また同時に観光ビザの解禁が女性の人権を向上させたといっても過言ではないでしょう。
サウジアラビアが世界と違う価値観を保ちながら、しかしまた、イスラム教の盟主という立ち位置を守りながら政治の大転換を行なったことは、歴史に残る業績になるでしょう。
終わりに
この記事を書いてから一ヶ月後の(2019年12月9日)に、また新しいニュースが飛び込んできました。
今までレストランなどでは、独身男性用席とファミリー用の席が別れていましたが、これからはそれが廃止されます。
このようにわずか一ヶ月の間にも政策の変化が起きています。
また2019年9月から小学校1年生から小学校4年生までは、男女共学になりました。
いまのところ、まだ一部の学校では、男女共学になっていないところもあるようですが、徐々に統合されていくことでしょう。
これからも、細かい政策の変更は、徐々に起こって来るような気配が感じられます。
ただ、私が危惧していることは、観光客の流入により拘束や逮捕者が増え、社会全体の風紀が乱れることによりまた以前の法律に逆戻りすることです。
そうならないためにも、観光客のみなさんには、是非、規則に違反しないで、楽しい思い出に残る旅行をして頂けることを願っています。
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